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日誌

「何も考えない」ことを考える

知誠館では月に一度、生徒にこれまでの人生を振り返って語ってもらうことを目的とした「語り場」という時間を設けています。
今月の「語り場」は中学1年生のA君でした。
A君の語りの中から私が感じたことをブログに書きたいと思います。


─みんながA君について知ってることって何や?


「語り場」はいつも、塾長のこの問いかけからスタートします。








みんなはこれに対して


─うーん…いつもゲームしてるし詳しい!
─カードゲームもしてるな
─いつも俺のこと無視しはる(笑)
─前までふえぇ~って顔すること多かったけど最近たくましくなった


など日々のことを思い出しながら答えていました。








確かに、A君はカードやゲームをするのが好きでとても詳しいし、ここに来始めたときよりずいぶんたくましくなりました。
でもみんな、ここに来るまでのA君については全くと言っていいほど知りません。
私もA君のお母さんから話は聞いたことがあったのですが、A君自身の口から聞いたことはありませんでした。








─小学校1年生のころのA君はどんな人やったんや?
─うーん…覚えてない…。2年生からやったら覚えてる。
─じゃあ2年生のときのA君のこと教えて








「あんまり楽しくなかった・・・同じ学年の子と年上の子にからかわれてガラス割った・・・夏休みのときに腎臓の病気になった・・・退院したら学校行きにくくなった・・・理由はわからん・・・」
ぽつりぽつりと、でもしっかりとした口調で自分のことを話し出したA君。








「(3年生のときは)お母さんに学校に送ってもらってた・・・でも教室にはいかんかった・・・いつも先生と2人で別の教室にいた・・・」
「(4年生のときは)先生がついてくれなくなって、保健室の前、飼育小屋とかがあるところにずっといた…」
こんな風に、A君は自分の言葉で今までの振り返りを語ってくれました。








今まで知らなかったA君の一面を知ったことに対してもそうでしたが、私は正直こうして言葉が出てくることに驚きました。








なぜなら、今までは何を聞いても「うーん…」とか「わからん」としか答えられなかったんですから。
まだ言葉になっていないところも垣間見られましたが、それでも塾長の質問に一生懸命考えて、自分の言葉で答えていました。








私はこのA君の姿を見ながら、ひとつ疑問に思ったことがありました。
それは、
─これだけ自分のことを振り返る力とそれを言葉にする力をどこかに持っていたA君が、小学校4年生のころ1日中保健室の前で過ごしていたときにいったいどんなことを考えていたんだろう?
というものでした。








私がそのように聞くと、A君はあっさりこう答えました。
─何も考えてない








何も考えてない…だと…?!
そんなわけあるかい!と一瞬思いましたが、A君は冗談を言った様子もなく、飄々としています。








10歳のA君は、雨の日も風の日も暑い日も寒い日も、保健室の前に座って「何も考えない」ことをしていました。


じゃあ、何も考えないってどういうことやろう?
「考えない」じゃなくて「考えられない」なんかな?
「考えない」ことをせざるを得ない状況なんか?
自分やったら無理やな。
「考えない」ができるってすごいことなんちゃうかな。
うーん…








私はいつも何か考えてしまいます。しかもかなりネガティブに。
もし私がA君と同じ状況だったとしたら、発狂していたと思います。








それがA君にはできたのか…それとも、そうすることがA君自身を守る術だったのか…
そのあたりはA君に聞いてみないとわかりませんが、10歳のA君が「何も考えない」ことをしていたのは事実みたいです。








私はそこに、親の目からでも、周りの大人からでも、友達からでもない、A君の目から見た大事なものがあるように思えてなりませんでした。
そしてまた、そのときの風景を私も見てみたいなと思いました。








今後A君と関わる中で、少しでもその風景が見えればと思います。
A君、「語り場」お疲れ様でした。
次は誰がどんなことを語ってくれるんでしょうか。楽しみです。
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