物語の証人になる。
学びの森では、生徒たちが自身のライフストーリーを振り返り、他者に伝える「森の語り場」という活動を大切にしています。
生徒たちはこれまでを振り返って言葉にすることで物語の作者になり、それを聞く人たちはその物語の証人になります。
今回物語の作者になってくれたのは、10歳の女の子と11歳・12歳の男の子の3人でした。
─そんな幼い子どもたちでも物語の作者になれるの?
そう思った方もいると思います。
実は私も、昔(といっても彼女や彼らにとっては最近のことかも)のことを振り返って言葉にするのは難しいんちゃうかな?なんて思っていました。
しかし、聞き始めると本当にたくさんのことを語り始めたんです。
>幼稚園のときはやんちゃやった。
>小4の時の担任がマジでウルトラハイパーむかつくやつでな!
>小3までは楽しかったけど、友達に陰口言われたりしてさ…
>小学校は2年生の途中までしかいってないからわからん。
>隣に住んでた子が嫌やった。最初は友達やったけど…
>先生にお前が我慢しいって言われた。
>とにかく自分が悪者にされるねん!
3人が語った内容はここには書ききれません。
それほど、10年と少ししか生きてない彼女や彼らの人生にも、たくさんの経験が詰まっていました。
物語にしたら、短いかもしれません。言葉もまだ拙いかもしれません。
それでも3人が真剣に自分の過去と向き合い、一つひとつ言葉を紡いでいった物語は、とても深く読み応えのあるものでした。
3人のうちのひとりがこんなことを言いました。
「みんなはさ、学校に行って迷惑かけるのと、家に居るのとどっちがいい?」
えっ・・・。一瞬場の空気が止まります。
それは、物語の作者が急に私たちに問いを投げかけ、しかもその問いが自分と切っても切り離せないものだったからではないでしょうか。
そこから対話が始まります。
もうひとりは、塾長に対してこんなことを言いました。
「そうそう!ホンマようわかってくれるわぁ~!」
その嬉しそうな表情といったらありません。
もしかすると、今まで自分の言葉に耳を傾けてくれる大人が少なかったのかもしれません。
この言葉を発した生徒は、今日この瞬間に、自分の物語を誰かが理解してくれることの喜びを知る経験をしたのではないでしょうか?
そしてもうひとりは、前までの自分と今の自分を比べてこんなことを言いました。
「勉強は相変わらず嫌い。でも、朝から来たら楽しいと思えるようになった。」
すごいな・・・。聞いていた他の生徒が思わず口にします。
それは、まだ10歳そこそこの子が自分の変化を言葉にし、しかもそれが現実のその子の行動からありありと伝わったからではないでしょうか?
冒頭に書いた「物語の証人になる」というのは、ただ単に語ったことを聞くということではありません。
問いかけられたことに対して考えたり、どんな表情で語るのかを見たり、語った内容を現実の場面と結び付けたり…。
物語そのものと、物語を作る個人、そしてその課程を見るということだと私は考えています。
聞いていた生徒たちの反応を見ていると、確かにみんなが3人の物語の「証人」になっていたと思います。
誰かが「作者」となり、誰かの「証人」になる関係が、学びの森では作られていきます。
そんなことを考えさせられた回になりました。