MENU

日誌

貯金を作らなくっちゃ!

中学2年生のゆき子は、いつもこんなことを考えていました。
「このままずっと、学校へ行けなくなったらどうしよう。
高校も大学もいけないし、就職もできなくなってしまう。
それに家から一歩も出れなくなって、
結婚もできないかもしれない・・・」
彼女の不安は、妄想のように延々と続きます。


「このまま年いったらどうしよう。
更年期になっても、一人やったらいっぱい苦しまなあかん。
“命の母A”を飲んでも副作用があるやろしなあ・・・
老後は、どうなるんやろう?
ひとりの老後って、考えただけでも怖くなる」
不安は、とどまるところを知りません。
そもそも、不安は創造的な活動なのです。
だから、どんどん自分で作り出していけるものです。
そういう意味では、希望も同じです。
でも、不安と希望は、大きく違うところがあります。
それは、不安は行動を抑圧しようとするのに対して
希望は行動を促進しようとするという点です。
ゆき子は、学校へ行こうとすると
お腹が痛くなる。
胸が気持ち悪くなる。
口内炎ができる。
朝起きられなくなる。
いろんな状況が、次から次へと出てくるんですが
結局、その結末は、ただ家にとどまるというだけでした。
そして、ただ家にじっとしている自分を振り返って
また新しい不安を作っていったんです。
不安が不安を生む、いわゆる「不安のループ」に
ゆき子は陥っていたわけです。
通常、行動と思考は常にバランスをとっています。
行動が、新しい経験を誘発し
その経験が、再び新しい思考を生み出すからです。
だから、思考が大きくなれば、
行動の範囲も広がっていくのです。
でも、ゆき子場合は、
思考が不安に置き換えられたため、
その不安が、彼女の行動を抑制したのです。
その結果、不安ばかりが大きくなり
彼女の行動は、いつも家にいるということになってしまっていた。
大きな不安と小さな行動、
そのアンバランスさが、彼女を苦しめました。
ある日、ゆき子が嬉しそうにやってきました。
「塾長~、聞いてください」
「何や」
「昨日、地区の運動があったんですけど、
私それに出たんです」
「すごいなあ」
「そうでしょ、102歳になるひいおばあちゃんを連れて
私、運動会に行ったんです。
そこ、トイレが一か所しかなくて、
最初は無理って思ったんやけど
大きいおばあちゃんを連れていかないと、っていう気持ちが
勇気をくれたかな?」
「すごいやん」
「結局、トイレには一回もいかなかった。
自分でも驚いたくらいです」
「いつもトイレのことが不安やのにね」
「私、思ったんです。
案外、やってみたらどうってことないなあ、って・・・
行動に移す前は、ものすごく心配なんやけど、
終わってしまえば大丈夫。
そんなことなんかも、って・・・」
ゆき子は、そんな風に自分で自分を振り返っていました。
「大事なことやと思うで。
今までのゆきちゃんは、不安が大きくなった時
行動しないという選択をしてきた。
その時々で、いっぱい理由はあるんやけど
結局、何もやらずに家にいるって選択。
そうすると、必ず何もやらない自分を見て
また、このままだったら将来どうなるんやろうって
不安が生まれてしまう。
この繰り返しやったんだと思う。
でも、少し気づき始めた。
行動に移してみれば、案外大したことないって・・・
行動しないのと行動するのは、
全然違う。
ゆきちゃんが、行動しなかったら
そうしている自分も嫌になるし、新しい不安も生まれる。
これって「借金」を作ってるようなものや。
行動しないという選択をすればするほどその借金が増えていく。
でも、とりあえず行動してみれば、
案外できてしまうことに気付く。
そんな自分が、好きになれる。
そしたら、自分に希望が持てるようになってくる。
これは「貯金」や。
ゆきちゃんは、行動しないことで
今までいっぱい借金を作ってきたのかもしれん。
でも100万の借金があっても
150万の貯金があれば問題ない。
だから、これからあの運動会の時のように
まず行動することで、貯金を作ればいいんや」
そんなことを私は、彼女に伝えていました。
それからの、ゆき子は見違えるように変わっていきました。
「貯金をつくる」というキーワードが、
彼女の心に響いたのかもしれません。
そんな心に響く言葉を
一人一人の子どもたちに対して見つけて
タイミングを見計らって投げかけていくことも
私たちの大事な仕事なのかもしれません。