精神的に参ったとある生徒が相談にやってきました。
彼は出口のない問いに迷い込み、その答えを出せずにいました。
この堂々巡りの状況は、「ダブルバインド」と呼ばれています。


「ダブルバインド」という概念を、はじめて主張したのは、Ｇ.ベイトソンです。
ベイトソンの代表作である『精神の生態学』という本の中で初めて取り上げられます。
ベイトソンは、精神科医ミルトン・エリクソンが勤務する病棟で、統合失調患者の成育歴に、母子関係の強烈な困難性があることに気づきます。母親が子どもを「愛しているわ」って言いながらぶん殴ったり、その逆に強烈に叱りつけながら抱きしめたりといった相矛盾する行動をとり続けることで、子どもは自分の人格を統合できなくなっていくことに気づいていくのです。
ダブルバインドとは、「挟み撃ち」のことです。
右に行ってもダメで、今度は左に行ってもダメという風に、一向に出口が見つからずに考えが堂々巡りに陥ってしまう状態を指します。
いわば、論理的なシステムの破たんです。
人はこのような状況に陥ってしまうと、極端に高いストレスを抱えることになります。
だから、ダブルバインド状態をどう回避するのか？
このことは、困難を抱えてしまっている若者にとってはとても大事な過程です。
あるいは、一旦ダブルバインド状態に陥ったとしてもそこからどのような方法で脱出するのか？を考えることも必要かもしれません。
これはなかなか難しい状況ではあるのですが、
大事なポイントはダブルバインドが生じている次元とはことなった視点をもう一つ持つことで解決への糸口を見つけることです。
俯瞰的な視点が、ヒントを提供してくれるものです。
知誠館の中で私が日々取り組んでいるのは、そんなことかもしれません。
この深い悩みの中で苦しんでいた生徒が、再び歩き始めるのにそんな長い時間は必要ありませんでした。